2015年3月16日月曜日

ダルビッシュの故障がレンジャースにもたらす影響

3月最初の土曜日、野球界はダルビッシュ有の右ひじ尺側側副靭帯断裂という激震に襲われた。特に、レンジャーズとそのファンは誰もが休暇から帰還した同僚の姿を目撃したマイケル・スコットと同じリアクションをとった。故障に次ぐ故障に襲われた2014年からの巻き返しを期していたチームにとって、エースがシーズンを棒に振るというのは、今後1年以上にわたって彼の芸術的なピッチングに酔いしれることができないという以上の意味があるのは誰の目にも明らかだ。だが、実際にどの程度の影響があるのだろうか。

本場アメリカにおいて、その年のチームの期待値を計る手法としてよく用いられるのが、毎年シーズン前に発表されるSteamer, ZiPS, PECOTAといったプロジェクションシステムだ。これらのシステムはまず個々の選手の成績 - 打席数、安打数、本塁打数、盗塁数といった基本的なものから最終的にはWAR(Wins Above Replacement, 代替可能レベルの選手と比べてどれだけチームの勝利数を増やしたかを表す数字)という究極的な選手評価の数字まで - を算出、そして各チームの所属選手の成績を見込まれるプレイングタイムの比重に応じて加重していき、最終的に見込まれる勝利数をはじき出す。

通常、代替可能選手だけで25人のロースターを埋めると、そのチームの期待勝利数は1シーズンあたり約48勝になる。これは114敗を意味しており、これでは当然プレーオフ進出は不可能などころか、ダントツで最下位に沈む数字だ。2012年に2つ目のワイルドカード枠が導入されて以降、MLBにおいてプレーオフ争いを演じるには85勝がボーダーラインといわれている。つまり、プレーオフを狙えるコンテンダーとなるためには、85と48の差、37勝分を25人のロースター枠を使って埋めなければならない。

ここではZiPSの数値を引用してみよう。Dan Szymborskiによって開発されたこのシステムは、ダルビッシュが2015年のレンジャーズの勝利数を4.3勝増やすと予測していた。ちなみに、ZiPSが今年4.0勝分以上の活躍をするとはじき出しているのはダルビッシュのほかに9人しかいない。つまり、ZiPSはダルビッシュをデビッド・プライス、クリス・セール、マックス・シャーザーといったMLBを代表する投手たちと同様に評価しているのだ。

ダルビッシュの身に忌々しい悪夢のような事態が起きる前、各プロジェクションシステムは2015年のレンジャーズを77-82勝できるチームだと予測していた。これは運が良ければプレーオフ進出を狙える位置だ。ここからダルビッシュの期待値分の約4勝を引くと、レンジャーズは73-78勝まで下がってしまう。ここからプレーオフを争うためには、たとえば若手選手が全員予想を上回る成長を見せ、ベテランもキャリアハイの成績を残すなどといったかなり多くのファクターが好転しないければならない。もちろん達成不可能ではないが、7勝分の幸運を期待することは3勝分の幸運を期待することに比べたらはるかに無謀だ。仮にプレーオフにたどり着けたとしても、絶対的なエースを欠いた状態でプレーオフの各ラウンドを勝ち抜くのは、ポーカーでロイヤルストレートフラッシュを出す以上に至難の業だ。ダルビッシュの不在はレンジャーズにとってありとあらゆる意味で大打撃なのである。

今後起こり得る可能性としては、一部で噂されているトレードによるエース級投手、具体的にはフィリーズのコール・ハメルズの獲得があるかもしれないが、それはトレードデッドライン間際になってもプレーオフ戦線に残っていた場合に限られるだろう。仮に今の状態のチームに開幕からハメルズを加えたとしても、勝率.500をわずかに上回るかどうかの戦力にしかならない。その程度のチームを作るためにわざわざプロスペクトという、不死鳥の尾羽にも匹敵する価値のある貴重な資産を放出する必要など皆無だ。

今回のダルビッシュの怪我における唯一の好材料は、FanGraphsのDave Cameronも書いているように、これでレンジャーズが彼を2017年まで保有できることがほぼ確定したという事実くらいだろう。ダルビッシュの契約には2012-2016年のサイ・ヤング賞投票の結果によって2017年の契約をオプトアウトできる条項があるが、2015年を棒に振ることにより、この条項の達成はほぼ不可能となった。言い換えれば、レンジャーズはダルビッシュの契約の4年目を失う代わりに、6年目の保障を得たようなものである。そして、2年後には昨年A+とAAで計42HRを放ったトッププロスペクトのジョーイ・ギャロをはじめとした新鋭たちがMLBで戦う準備が整っているだろう。そんな若手中心のチームにおいてダルビッシュは心強い存在になるはずだ。

とにもかくにも、レンジャーズファンは2015年も怪我を恨めしく思いながら過ごさなければならないようだ。