2015年10月5日月曜日

マックス・シャーザーの金字塔と幻に終わった偉業

           
10月3日、レギュラーシーズン閉幕が間近に迫ったニューヨークにて、ナショナルズのマックス・シャーザーが今シーズン2回目となるノーヒットノーランを達成した。これにより、同一シーズンに2回この快挙を達成した史上6人目の投手(うち一回はポストシーズンで達成したロイ・ハラディも含む)となったシャーザー。これだけでも歴史的な偉業だが、この試合ではほかにも特筆すべき記録が達成された。今回はそのうちのいくつかを紹介しよう。

・史上2番目に高いゲームスコア 

まずは聞きなれていない読者がほとんどであろう「ゲームスコア」という指標を簡単に解説していきたい。これは「セイバーメトリクスのゴッドファーザー」ことビル・ジェイムズによって開発された、先発投手の1試合ごとの貢献度を図る指標だ。計算方法は以下の通り。

・すべての投手は試合開始時点で50ポイントが与えられる。
・そこにアウトを一つとるごとに1ポイント、つまり1イニングを投げるごとに3ポイントを追加していく。5回以降はイニングを完了するごとにさらに2ポイントずつが与えられる。
・三振は1個につき1ポイントを付加する

そこから

・被安打1本につき2ポイントを差し引く
・自責点1点ごとに4ポイントを差し引く
・非自責点1点ごとに2ポイントを差し引く
・余四球1個につき1ポイントを差し引く

つまり、ある投手が7回を投げて被安打7、失点はすべて自責点で3、奪三振5、余四球2だったとすると、その投手のゲームスコアは50+21+6(5-7回を投げ切った分)+5-14-12-2=54となる。これは極めて平均的な数字と言っていい。

さて、シャーザーだが、3日の登板では9回を投げ抜き17奪三振、被安打、失点・自責点ともに0なので50+27+10+17=104と驚異的な数字となる。これはただ驚異的ではなく、9イニングの試合に限れば史上2番目に高い。上にいるのはケリー・ウッドが1998年に1試合20三振を奪った際に記録した105という数字だけだ。

なぜ9イニングの試合限定なのかというと、1960年代以前は投手がとてつもなく長いイニングを投げるケースがよくあり、延長戦でポイントを稼ぐケースが多くみられるからだ。実際に、1920年には26回を投げぬいてゲームスコア153を記録する、ということもあった。

話がそれたが、シャーザーが記録した104という数字は投手分業制が当たり前になった現代では達成不可能に近い偉業といえよう。以下は9イニングの試合で達成された100以上のゲームスコア一覧である(一番右の列がゲームスコア)。全部で13回しか記録されていないことからも相当な偉業であることがわかる。

Rk Player Date Tm Opp Rslt IP H R ER BB SO HR GSc
1 Kerry Wood 1998-05-06 CHC HOU W 2-0 9.0 1 0 0 0 20 0 105
2 Max Scherzer 2015-10-03 (2) WSN NYM W 2-0 9.0 0 0 0 0 17 0 104
3 Clayton Kershaw 2014-06-18 LAD COL W 8-0 9.0 0 0 0 0 15 0 102
4 Matt Cain 2012-06-13 SFG HOU W 10-0 9.0 0 0 0 0 14 0 101
5 Nolan Ryan 1991-05-01 TEX TOR W 3-0 9.0 0 0 0 2 16 0 101
6 Sandy Koufax 1965-09-09 LAD CHC W 1-0 9.0 0 0 0 0 14 0 101
7 Max Scherzer 2015-06-14 WSN MIL W 4-0 9.0 1 0 0 1 16 0 100
8 Brandon Morrow 2010-08-08 TOR TBR W 1-0 9.0 1 0 0 2 17 0 100
9 Randy Johnson 2004-05-18 ARI ATL W 2-0 9.0 0 0 0 0 13 0 100
10 Curt Schilling 2002-04-07 ARI MIL W 2-0 9.0 1 0 0 2 17 0 100
11 Nolan Ryan 1973-07-15 CAL DET W 6-0 9.0 0 0 0 4 17 0 100
12 Nolan Ryan 1972-07-09 CAL BOS W 3-0 9.0 1 0 0 1 16 0 100
13 Warren Spahn 1960-09-16 MLN PHI W 4-0 9.0 0 0 0 2 15 0 100

・同一シーズンで2度のゲームスコア100以上達成。

さて、100を超えるゲームスコアを叩き出すのがどれだけ困難なことかを説明したが、シャーザーにはそれが当てはまらないかもしれない。というのも、上の一覧で既にお気づきの読者もいるかもしれないが、これはシャーザーにとって今季2度目のゲームスコア100越えなのだ。もちろん、同一シーズンで2度達成したケースは史上初である。キャリア全体で見ても、ノーラン・ライアンが1972、1973、1991年にそれぞれ1度ずつ、計3回記録しているだけだ。ある意味、シャーザーは伝説的速球投手に肩を並べ、あるいは抜いたといえるかもしれない。

同一試合で2人の投手が二桁奪三振、0四球

この試合で輝いたのはシャーザーだけではなかった。相手メッツの先発、マット・ハーヴィーも6イニングで11三振を奪う力投、と同時に一人の打者も歩かせない精密なコントロールを見せつけた。これにより、シャーザーの17奪三振、0四球と合わせて史上6回目の同一試合で両チームの先発投手が二桁の三振を奪いながら一人も歩かせないケースとなった。

幻に終わった年間3回の完全試合

さて、最後にたらればの話。前述したように、シャーザーにとって今季2度目のノーヒッター達成となった3日のメッツ戦だが、許した走者はユネル・エスコバーの送球エラーによって出塁した一人のみ。もしこれがなければ完全試合だったかもしれない。シャーザーは1回目に達成した6月20日のパイレーツ戦でも9回2アウトから死球、それも打者が肘を出したもの、を与えるまではパーフェクトと実に惜しいところまでいっている。さらにその前の登板、16三振を奪いゲームスコア100を叩き出した6月14日のブリュワーズ戦ではポテンヒットと四球によって許した走者2人のみ、とこちらも非常に惜しかった。

完全試合が非常に困難な偉業なのは読者の皆さんもよく分かっているはずだ。これまでメジャーリーグの長い歴史の中で達成されたのはわずか23回のみ。そのうち、複数回成し遂げたものはいない。あのフィル・ハンバーでさえ1度しか達成できなかった。もしエスコバーが正確に送球していたら。もしパイレーツの27人目の打者となったホゼ・タバタが肘を出していなかったら。もし当たり損ねのポテンヒットが落ちずに補給されていたら。もし審判が際どいコースをストライクとコールしていたら。マックス・シャーザーは空前絶後の年間3回の完全試合を達成した投手として、永久に人々の間で語り継がれることになっていたかもしれない。

2015年3月16日月曜日

ダルビッシュの故障がレンジャースにもたらす影響

3月最初の土曜日、野球界はダルビッシュ有の右ひじ尺側側副靭帯断裂という激震に襲われた。特に、レンジャーズとそのファンは誰もが休暇から帰還した同僚の姿を目撃したマイケル・スコットと同じリアクションをとった。故障に次ぐ故障に襲われた2014年からの巻き返しを期していたチームにとって、エースがシーズンを棒に振るというのは、今後1年以上にわたって彼の芸術的なピッチングに酔いしれることができないという以上の意味があるのは誰の目にも明らかだ。だが、実際にどの程度の影響があるのだろうか。

本場アメリカにおいて、その年のチームの期待値を計る手法としてよく用いられるのが、毎年シーズン前に発表されるSteamer, ZiPS, PECOTAといったプロジェクションシステムだ。これらのシステムはまず個々の選手の成績 - 打席数、安打数、本塁打数、盗塁数といった基本的なものから最終的にはWAR(Wins Above Replacement, 代替可能レベルの選手と比べてどれだけチームの勝利数を増やしたかを表す数字)という究極的な選手評価の数字まで - を算出、そして各チームの所属選手の成績を見込まれるプレイングタイムの比重に応じて加重していき、最終的に見込まれる勝利数をはじき出す。

通常、代替可能選手だけで25人のロースターを埋めると、そのチームの期待勝利数は1シーズンあたり約48勝になる。これは114敗を意味しており、これでは当然プレーオフ進出は不可能などころか、ダントツで最下位に沈む数字だ。2012年に2つ目のワイルドカード枠が導入されて以降、MLBにおいてプレーオフ争いを演じるには85勝がボーダーラインといわれている。つまり、プレーオフを狙えるコンテンダーとなるためには、85と48の差、37勝分を25人のロースター枠を使って埋めなければならない。

ここではZiPSの数値を引用してみよう。Dan Szymborskiによって開発されたこのシステムは、ダルビッシュが2015年のレンジャーズの勝利数を4.3勝増やすと予測していた。ちなみに、ZiPSが今年4.0勝分以上の活躍をするとはじき出しているのはダルビッシュのほかに9人しかいない。つまり、ZiPSはダルビッシュをデビッド・プライス、クリス・セール、マックス・シャーザーといったMLBを代表する投手たちと同様に評価しているのだ。

ダルビッシュの身に忌々しい悪夢のような事態が起きる前、各プロジェクションシステムは2015年のレンジャーズを77-82勝できるチームだと予測していた。これは運が良ければプレーオフ進出を狙える位置だ。ここからダルビッシュの期待値分の約4勝を引くと、レンジャーズは73-78勝まで下がってしまう。ここからプレーオフを争うためには、たとえば若手選手が全員予想を上回る成長を見せ、ベテランもキャリアハイの成績を残すなどといったかなり多くのファクターが好転しないければならない。もちろん達成不可能ではないが、7勝分の幸運を期待することは3勝分の幸運を期待することに比べたらはるかに無謀だ。仮にプレーオフにたどり着けたとしても、絶対的なエースを欠いた状態でプレーオフの各ラウンドを勝ち抜くのは、ポーカーでロイヤルストレートフラッシュを出す以上に至難の業だ。ダルビッシュの不在はレンジャーズにとってありとあらゆる意味で大打撃なのである。

今後起こり得る可能性としては、一部で噂されているトレードによるエース級投手、具体的にはフィリーズのコール・ハメルズの獲得があるかもしれないが、それはトレードデッドライン間際になってもプレーオフ戦線に残っていた場合に限られるだろう。仮に今の状態のチームに開幕からハメルズを加えたとしても、勝率.500をわずかに上回るかどうかの戦力にしかならない。その程度のチームを作るためにわざわざプロスペクトという、不死鳥の尾羽にも匹敵する価値のある貴重な資産を放出する必要など皆無だ。

今回のダルビッシュの怪我における唯一の好材料は、FanGraphsのDave Cameronも書いているように、これでレンジャーズが彼を2017年まで保有できることがほぼ確定したという事実くらいだろう。ダルビッシュの契約には2012-2016年のサイ・ヤング賞投票の結果によって2017年の契約をオプトアウトできる条項があるが、2015年を棒に振ることにより、この条項の達成はほぼ不可能となった。言い換えれば、レンジャーズはダルビッシュの契約の4年目を失う代わりに、6年目の保障を得たようなものである。そして、2年後には昨年A+とAAで計42HRを放ったトッププロスペクトのジョーイ・ギャロをはじめとした新鋭たちがMLBで戦う準備が整っているだろう。そんな若手中心のチームにおいてダルビッシュは心強い存在になるはずだ。

とにもかくにも、レンジャーズファンは2015年も怪我を恨めしく思いながら過ごさなければならないようだ。